
ものごとには おわりがやってきて、
あたらしいところへすすみなさいと 世界はいう。
わたしは小さいとき、
なんでここにずっといちゃいけないんだろうと
何度もおもった。
もう幼稚園には通えないといわれたときも、
クラスがえがやってくる春も。
なぜすらすらと、ここを捨て
次へゆかなくてはいけないのか、と。
先日、ましゅ卒園しました。
何日も前から
涙腺のたががはずれっぱなしだったわたしは おもったとおり、
びしょびしょに泣いた。
この園へ入ったころ
毎朝、別れ際にましゅは 大きな声でよく泣いた。
わたしの手や、スカートの裾をつよく握って
「ママがいい」
と 離さなかった。
引き剥がすようにして、
逃げるみたいにして 門を出る背中に
いつまでも泣き声がひびいた。
お迎えのときはうれしくて
園に続く道の曲がり角もはねるみたいにして
会いたくて会いたくて
走っていった。
園庭でごそごそ遊ぶ背中を呼ぶと、
ぱっとした顔で駆けてきて
草花でつくった小さい花束をくれたりした。
それがいつのまにか、
笑って手を振って
仲良しの子と 踊るように園庭に駆け出すようになって、
迎えに行っても
「まだ早すぎるー」
と、ぶーぶーいうようになった。
いつのまにかこんなにたくましくなって、
今日は卒園式だというんだから。
入場してくる背筋のぴんとした手足をみても
クラスのどの子の顔をみても
椅子に座って からめる小さな指先をみても
歌詞がおぼつかない様子で歌う 口もとをみても
すべもなく
びしょびしょに泣いて、目の前が雨みたいだった。
こらこら。見えないくらい泣いてどうするんだと
言い聞かせてみても、
止まりゃしない。
こと わたしの場合。
これまでしてあげられなかったこと
この子からわたしの手が 奪ってきてしまったこと
この小さいからだに 我慢させてしまったこと
この小さいこころに 与えてしまったことごと。
通り過ぎ、もうどうしようもないこと。
そんなものごとが、ひとつひとつカタチが見えないくらい
かたまりになって ぶぁぁぁぁと襲ってきて、
泣いた。
なんだろう、こういうわたしであることと、
一生懸命大きくなった この存在に。
後悔っていうのとも違う
ただ そうであること
その「事実」が、胸に痛かった。
のだとおもう。
いつもいつもは鈍感で、
この小さいこころを汲み取ってあげられないことが
たんとある。
小さい花を無神経に踏みつけるようなこと、
どんなにしたか知れない。
そんなことに ふと気がつくことがあって、
反省しては、泣き、あやまる。
そのくり返しだ。
もう、ずっとずっとずっと。
それでも元気に育ってくれて、
こうして わらって、歌をうたっている。
びしょぬれに泣くわたしをみて、
おどけた顔をしたりする。
卒園証書をおじぎして受け取って、
これから小学生になるんだという。
ありがとう とおもう。
もっともっと素敵な生き物になって、
きみのこころを
少しでも包めるようになりたいからね。
ふかふかの、
ハイジのおじいさんみたいに。
すごいスピードで大きくなっていくきみが、
いつかこの手からはなれてしまう
その前に。
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