
今すんでいる家の天井がすきだ。
たたみに寝転がりながら
たびたび、しみじみとおもう。
我が賃貸の家は築50年以上はありそうな
ぼろ家で、
年に一度、柱から飛び出した羽蟻の大乱舞が
風呂場で繰り広げられる。
隙間だらけで大風の日は
家の中を堂々と風が吹き抜ける。
あらゆる隙間から、あらゆる虫が入って
いらっしゃる。
冬のころは極寒。
今、来る冬をおもうだけで
身震いがする。
しかしながらどうして、
実になかなかこの家を好いています。
とくに天井がいい。
各部屋ごとに微妙に異なる様子をしている。
天井中央がやや高くなっていて、
なだらかな三角山形をした2階の寝室。
その真ん中と両端にはどーんと竹がはめられている。
木板の木目が香ばしい色をして並ぶ隣室や階下。
その幅、材質、色や配置が違っているから、
いちいちその景色が違う。
近ごろのアパートやらでは
小さくもこもこした白い壁紙が壁天井一面に貼られていることも
多いから、
昔の人の作る家への計らいには
頭の下がる思いがする。
実にユニークで、豊かである。
小さなころ、
平屋の、画一的な
何の面白味もない社宅に住んでいて、
つくづく当時、その家がいやでしょうがなかったけれど、
眠るときの天井は木目だったのを憶えている。
眠るタイミングがわからず、
くうくう寝息をたてる妹の隣で
天井を見上げていた。
あのころ、暗闇の中の木目には
実にいろいろのものが流れた。
真黒闇に浮かぶ天井は天の川のようにちらちらと光りながら、
ぬいぐるみの熊、汽車、魚にキューピーのお人形、カレーにキャンデー、類々、、を
ゆっくり運び、通り過ぎる。
時々、怖いものも流れてきた。
そういうときにはきつく目を閉じる。
黙って、天井の川を眺めるうちに
いつのまにか眠っている。
そういう夜を、いくつもいくつも通り過ぎた。
ふと、大人になったとき
そのことを思い出した。
どれどれ、と
暗闇の中によくよく目をこらしたけれど
もう何も流れてぁこなかった。
そのときああ、私は大人になってしまったんだなと
おもったのである。
娘のみる天井にも今、なにか、流れているんだろうか。
今度こっそり、尋ねてみようかしら。
| h o m e |