
大学生の時、
目の覚めるような老人をみた。
六本木の青山ブックセンターで、ぶらぶら、
本などを物色しもって時間をつぶしていたときである。
ふと
レジの脇に立ち、
世界を眺めるその老人に釘付けになって、
立ち尽くした。
凛として
その場から本屋、この世界を見つめるその目が
はっとするほど美しく、
雄々しくて、
色っぽくさえあった。
スクリーンで拝見する姿とは一線を画している。
こちらが知るのみで、
あちらからすれば知り合いでもなんでもないんだけれど
思わず会釈をしたような気がする。
こちらをみて、小さく彼もうなずくように
頭を下げてくれたような気がする。
幻であったかもしれない。
今でも心に張り付いている景色に音はなく、
一切の雑ごともなく
鮮やかにそこにある。
それ以来、憧れていたのである。
大滝秀治さんが亡くなって、とても悲しい。
彼の立つ生の舞台をひとめ見ておきたかったと
今になり、悔やんでも
もとには戻らないんだよなあ。
彼は俳人、種田山頭火を演じる芝居を
準備していたそうである。
嗚呼、
ぜひみたかったなあ。
後悔のないように、日々
生きなくては。
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