
気がつけば手の指の爪先が黒い。
何故かとおもえば
山菜を摘むからである
土筆につづき
蕗
つわぶき
わらび
むすこは料理するたび
ばくばくたべる
我先にとたいらげるのでわたしも
まけずにたべる
菊芋の種芋をくれたミサオさんが
蕗のとれるところをおしえてくれた
今が採りどきやからと
行ったかどうかと気にかけてくれる
ミサオさんはとても手厚い
むすことある朝採りに行く
桜のはなびらがひらひらとんでくるので
それをつかまえる
茹でて
皮を剥くと
翡翠色の蕗が水のなかでゆらめく
油で炒めてお醤油とおかか
お揚げと炊いてもおいしい
これはおやまでとったふきかと
なんどもなんどもききながら
むすこはあっという間に蕗をつまんで
たべている
田んぼに水がはいって
カエルのこえがする
ちいさなトンネルをくぐり
田んぼと小川の脇をゆく道がある
どこまでも小道はつづき四方八方にのびてゆく
散歩コースは無限に在る
山づたいにおそらく隣の集落へとつづく
緑の小道をみながら
お昼を告げるサイレンがなりひびく
今日はここまで
とひきかえす
探検冒険にいこう
と、あるとき
リュックをせおって、弁当をもって
むすことでかけてみる
道々、しずやかに花が咲く
草薮のなかのレンゲ草
名も知らぬ、蝋細工のような白い花
花弁、てりひかるはキンポウゲ
シダの若芽のぐるぐる
ぴかぴかひかる三枚の大きな葉
枇杷、
萌えはじめの葉はやらかくてあいらしいのを
さわってたしかめる
道は隣の集落の小高い丘に抜け
ちょうど行ったのはお彼岸のころ
風通しのいいお墓がならび
さらに丘の上へと草の道をのぼると
あれ
鳥居がみえる
桜の花が咲いて
やはらかな字で
こんぴら山
とかいてある
どの集落もこんぴらさんは高台にあるのだなと
おもいながら
参拝し
階段に腰掛け
もってきた文旦をむいてたべる
お茶をのみ
えびせんべいをかじる
まだふわふわの毛のついた
つわぶきの若いのを摘む
日当たりのよい斜面には
わらびが生える
何度か摘むうち
わらび目となる
なんとなくここらへんにありそうだというのがわかる
みれば
あっちにもこっちにも
それは微かにひかってみえる
むすこは摘んだわらびを
じぶんがもつからくれ
という
なんでもすぐにちぎってはぽいぽい捨てる彼であるが
わらびだけは
小さな手にしっかり握って
わらび摘むわたしの後をついてくる
その束はあるとき
その手に余るほどになる
このわらびも
油で炒めて醤油をまわしかけ、おかかをぱっとふる
おこわにする
味噌汁の具とする
蕗と一緒に煮物にする
微かにぬるっとするのがたまらない
蓬は摘んで
草餅にしたら
おどろくほど香りよく、色鮮やかに美味しい
蒸した餅に蓬をつきこむのは少々骨が折れるが
そんなことは食べればわすれてしまって
せっせとついて
おやつにする
畑を借りている御礼
むすこのお守りの御礼
いつもトマトや果物をくれる御礼にと
順にご近所さんにもってゆく
道はささやかな線路を橋で渡り
傍らには鶏がコケコッコーと鳴き
畑と家々を抜け下ってゆけば
海にでる
浜でもってきた弁当をひろげ
はだしにしてくれという
むすこの靴下と長靴を脱がして
わたしもはだしになって
砂浜をあるく
水をぴちゃぴちゃさせながら
岩の潮だまりをのぞき
貝殻をひろいながら
あるいてかえる
ありがたきかなこの春は
春は
山菜で
いそがしい
わたしの爪先はくろいが
とてもゆたかなことである
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